モルトウイスキーの製造・発酵から蒸留について / 吉祥寺 Vision

2021/09/20

モルトウイスキーの発酵と蒸留

今回は、前回の モルトウイスキーの製造・製麦から糖化について に引き続き、モルトウイスキーの製造の発酵から蒸留までを解説していきます。

 

 

1. 発酵

発酵

前回の記事の最後で、糖化槽から麦汁を引き出し、熱交換器にかけて麦汁を冷却しました。
この冷却の意味は、高温の麦汁に酵母を入れると酵母が死んでしまうためです。

冷却した麦汁を、今度は発酵槽という大きい桶のようなものに入れます。その時、同時に酵母も投入します。
発酵の目的は、酵母の働きにより7〜9%のアルコール度数の発酵液を作ることです。

モルトウイスキーの製造方法はビールと似ています。
その中で、ビールと違う点が、発酵をする前に煮沸による加熱殺菌するかしないかで、ビールは煮沸するのに対し、ウイスキーは煮沸しません。
そのため、麦汁の中には多種多様な微生物が存在するため、発酵の工程は非常に複雑な微生物の競い合いで行われます。
そんな状況の中で発酵を優位に進め、健全な状態に保つために、ビールよりも多くの酵母が使用されます。

 

2. 発酵槽

発酵槽は大きく分けて、金属でできたものと、木材でできたものの2種類があります。
金属の発酵槽は、洗浄や微生物の管理が容易でメンテナンス性に優れています。
木材の発酵槽は、保温性に優れているのと、乳酸菌の繁殖が盛んになり、また木材の中に住む微生物の影響もあり、独特の風味を生み出します。
例えば、ラフロイグやアベラワーは金属製、グレンフィディックは木材製です。
どちらが良いというわけではなく、蒸留所が作りたいウイスキーの味に合わせて設備を入れています。

日本の例でいうと、日本は木材の発酵槽が多いです。山崎蒸留所はステンレスと木製両方が入っています。
秩父蒸留所は日本の固有の味を追求したいという意味でミズナラの発酵槽を導入しています。
静岡蒸留所は地元静岡の杉を使った発酵槽を使用しています。
近年はクラフトウイスキーの流行りにより、その地域に根ざしたものということで、そのような選択をするケースが多いようです。

写真は静岡蒸留所の発酵槽です。

 

3. 酵母

酵母の解説は原材料の説明に記載してありますのでぜひそちらをご覧ください。

モルトウイスキーの製造・原材料について / 吉祥寺 Vision

 

4. 発酵の進み方

発酵は48〜60時間かかります。
発酵は大きく分けて3段階にわかれます。
最初の15時間前後は「酵母増殖期」と呼ばれ、コボがアミノ酸や糖分を食べて増殖します。
15時間後〜40時間後くらいの時期を「酵母最盛期」と呼び、この時期に酵母は積極的に糖を食べ、アルコールと二酸化炭素を作ります。ここで十分なアルコールを生成した酵母は、死んでいきます。
40時間以降をモロミの熟成期と呼び、酵母が死んだことによりそのスキを突くかたちで乳酸菌が増殖し、乳酸を生成します。
実はこのとき生成される乳酸の働きにより、蒸留の工程で蒸留器内部の銅の表面をきれいにするという効果があり、表面がきれいな状態が保たれるとそれだけ銅と蒸留液の反応がよくなり、クリーンでフルーティな蒸留液が取れるという効果があります。

十分にモロミが熟成したと判断されたタイミングで、次の蒸留工程に回されます。

 

5. ここ最近の発酵に対する変化

シングルモルトブームにより、これまでブレンデッドウイスキー用の原酒を中心に作ってきた蒸留所がシングルモルトを出すようになったことで、1つの蒸留所で以前より完成度の高いウイスキーを造る必要が出てきています。
そのため、発酵の工程を見直し、より発酵の時間を長く取ることで乳酸菌発酵による乳酸の効果を多く得る方向に行っています。
長いところだと72時間や90時間、中には120時間くらい取る蒸留所もあります。

また、ブレンデッドウイスキー用は大量生産が基本なため、大変時間がかかる発酵の工程は長く時間をとるとそれだけ生産量が落ちるという側面から、時間短縮をしていたのですが、発酵の時間を長くとっても大丈夫なように、新規の蒸留所を建設したり、機材を増強したりなどという努力をしています。

さらに、逆の方向で、ブレンデッドウイスキーに他の蒸留所では得られない全く違う風味を与えるためにわざと発酵時間を短く取る蒸留所もあります。
その蒸留所もボトラーズからシングルモルトで出ていますが、それはそれで大変素晴らしい味のものが多いのも面白いです。

 

6. 蒸留

蒸留

さあ、みんな大好き蒸留です。蒸留器の形に魅惑されているモルトファンも多いのではないでしょうか?

蒸留の目的は、発酵したモロミを加熱し、アルコールと水の沸点の差を利用してアルコールを蒸発させ分離した後、冷却しアルコールを濃縮することです。
これにより、アルコール度数70%前後の蒸留液を取ります。

モルトウイスキーの場合、通常は2回蒸留されます。

 

7. 蒸留器の形

蒸留器の形

蒸留器は大きく分けて4つの形があります。
・ツルッとしたストレート型
・くびれがあるランタン型
・ボールのような膨らみがあるボール型(バルジ型ともいいます)
・縦に長い筒のような形のローモンドスチル
また、それのいずれにも属さない特別タイプというのもあります。

ストレート型は気化した蒸気が対流する場所が無いため、最上部にあがりそのまま冷やされるため、比較的濃い蒸留液ができやすくなります。
それに対して、ランタン型やボール型は対流が発生し、比較的軽い蒸留液ができやすくなります。
ローモンドスチルは中に棚板を設置することで連続式蒸留機のような効果を生み出すことができる機材で、更に軽い蒸留液ができやすいと言われます。

 

8. 蒸留器の加熱方式

蒸留器の加熱方式は2種類あり、直接加熱と間接加熱です。
直接加熱はガスや石炭などで直接火を当てる方法で、焦げ付きが発生しないように蒸留器内部にラメジャーという焦げ付き防止のの回転する器具がつけられています。火が均一に行き渡らないことから、香ばしく力強い味わいが得られる傾向にあります。
間接加熱は、蒸留器内部にスチームコイルなどのパイプを設置し、130℃くらいの蒸気を通して加熱する方法で、均一に加熱されること、ゆっくり加熱され、蒸気の温度を安定させやすいため、スッキリした味わいになります。

直接加熱は火加減の調整やメンテナンスが難しいため、現在は減少傾向にあり、主流は間接加熱です。

ただし、日本の余市は石炭直火焚きを続けています。また、静岡蒸留所は薪蒸留を行える蒸留器があります。

 

9. 初留の役割

発酵後のモロミを蒸留器に入れ、加熱をするのですが、モロミは濾過せずに投入されるため、酵母が死滅し分解された成分のアミノ酸や脂肪酸エステルなどが含まれるため、加熱することで非常に複雑な化学反応を起こします。
この化学反応により、ウイスキーの風味であるカラメル、ナッツなどという香気が生まれます。
また、加熱されることによりこれらの成分が泡立ちの元になり、泡の量をコントロールすることで、泡の弾ける勢いにより、本来蒸留液に入らない成分を蒸留器の上部に送り込むことで、更に複雑な味わいを作り出すことができます。
この泡立ちの量をコントロールするため、蒸留器にはサイトグラスというのぞき窓がつけられています。
初留はアルコールがすべて取れるまで加熱が続けられ、約20%のアルコールが取れます。その時液体の量は35%程度まで減ります。

 

10. 再留の役割

初留で取れた液体を、再留釜に入れ、加熱します。このとき、前回の再留時に残った液体も一緒に混ぜて投入されます(後で補足します)。
再留は初留のような泡立ちは起こらず、静かに進みます。
再留の役割は、再留して出てくるアルコールを3つに分け、熟成に適した部分だけを取り出し、熟成に回すことです。
蒸留液の最初に出てくる部分を前留といい、この部分は荒くて熟成には向きません。
後半に出てくる部分は後留といい、今度はアルコールが低く雑味が多いのでこちらも熟成には向きません。
その間の一番美味しい部分の中留を取ります。このときのアルコール度数が70%前後となります。
では、この前留と後留はどうなるかというと、この項目の最初に書いた内容で、次の蒸留のときに混ぜて投入します。

ちょっとした小ネタですが、繰り返し混ぜることでだんだんこの中の成分もバランスがよくなるらしく、このいらない部分と思われる場所がその蒸留所の美味しさの秘訣だったりするそうです。
そのため、その年の製造が終わったときに残った前留、後留の液体は、タンクに貯蔵して翌年使用するそうです。
また、新しく建設された蒸留所などは、つながりのある他の蒸留所からおすそ分けしてもらったりもするようです。

 

11. 3回蒸留、その他の蒸留所

一部蒸留所では、3回目の蒸留を行っているところがあります。やることは再留とほぼ一緒です。
オーヘントッシャン、スプリングバンクのサブブランドのヘーゼルバーンです。
以前はもっとたくさんありましたが、現在はスコットランドではこの2箇所です。
また、スプリングバンクは2.5回蒸留と呼ばれる複雑な蒸留工程を踏んだり、モートラックは2.81回蒸留と言われるこれまた大変複雑な工程だったりと、特殊なことをしている蒸留所もあります。

ちなみにアイルランドでは3回蒸留が伝統的とされ、多くの蒸留所が3回蒸留です。

さて、これで樽熟成に回す前の蒸留液がやっと出来上がりました。
次は熟成、そして瓶詰めです。
よろしくお願いいたします。

 

Wataru Kobayashi  小林渉

Vision  Whisky bar 吉祥寺
0422-20-2023
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